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『キモチはオトに、変えられる』プロミュージシャン直伝の音楽教室
『キモチはオトに、変えられる』

プロミュージシャン直伝の音楽教室

ウィンドシンセって面白い!サックスやキーボードとの違いも解説します!

まえがき

近年注目を集めているウィンドシンセサイザー。
AKAI EWIやRoland Aerophoneをはじめ、現在では様々なメーカーから多様な機種が発売されています。
巣篭もり需要で安価なものでは1万円台から手に入り、リコーダー感覚の簡単操作で手軽に楽しめる上にヘッドホンなどを使えることで音量を気にする必要がないことから手にする人が増えました。
メーカーや機種によってコンセプトが大きく異なりますが、本記事では『そもそもウィンドシンセってなに?』『他の楽器とはどう違うの?』といったところに注目してお送りします。

ウィンドシンセサイザーとは?

ウィンドシンセサイザー…略してウィンドシンセ。
『シンセサイザー』といえば、ツマミやボタンなどが沢山ついた『鍵盤』をイメージする方が多いと思います。
ウィンドシンセはその『管楽器』版。いわゆる普通のシンセが鍵盤を押すのに対して、ウィンドシンセは息を吹き込んで音を奏でるシンセサイザーです。

息を吹き込むだけ!誰でも簡単に音が出せます

鍵盤シンセが打鍵によって音が出るのに対し、ウィンドシンセは息を吹き込むことで初めて音が出ます
リコーダーやサックス、クラリネットが近い感覚と言えるでしょう。
ですが、電子楽器なのでクラリネットやトランペットなど他の管楽器の様に『音を出すことすら難しい』ということもありません。
誰でも息を吹き込むだけで音が鳴る…リコーダーやハーモニカ(あるいは鍵ハモ)・オカリナ以外ではウィンドシンセくらいでしょう。さらに、後述の様な設定次第でさらに自分の吹き易いようにできるのは、電子楽器ならではの魅力です。

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比類なき表現力

鍵盤シンセとの発音方法の違いは、表現力にも大きな違いがあります。

それは『音の強弱』の付け方。

鍵盤シンセでは打鍵の強さやエンベロープの設定・足元のエクスプレッションペダルなど、さまざまな操作で音の強弱を表現します。
ウィンドシンセはフォルティシモからピアニシモまでの音の強弱はもちろん、アクセント的に最初だけ強めに息を入れてみる・逆にゼロから少しずつ息を強めたり・ロングトーンでも途中で音を強めたり弱めたり…などの表現が息だけでダイレクトにできます

 

さらに、ヴィブラートやベンドといった音高変化もとても直感的かつ繊細にできます。
機種によってその方法は異なりますが、多くはマウスピースを咥えたり・噛んだり噛まなかったりでヴィブラートやベンドをかけることができます。
鍵盤シンセでは手でホイールなどを操作してベンドやヴィブラートを効かせたり、ヴィブラートのかかり具合は予めプリセットする必要があります。ウィンドシンセではそれらを口元で繊細にコントロールできるので、微妙なニュアンスからダイナミックな表現までを意のままにすることが可能です。

音の立ち上がりから終わりまで、口元だけで直感的に様々な表現ができるのがウィンドシンセ最大の特徴であり、強みであると考えています。

 

ウィンドシンセ特有の機能として、 口元のヴィブラートやベンドより大きな変化をつけられるピッチホイールやセンサーなどを右手親指で操作するものも多くあります。

右手親指を置く部分におけるソプラノサックス(左)とEWI(右)での比較
EWIにはピッチベンドをするためのプレートが上下に付いている

リコーダーより簡単!?運指方法

↑ソプラノサックス(左)はオクターブキーが一つに対し、EWI(右)はキーではなくいくつかのローラーが付いている。
回転するローラーによって幅広い音域をスムーズに変えることを可能にしている。

ウィンドシンセは音の高さをこれもまた他の管楽器と同じ様に、指を『置く・離す』で決めます。
管楽器の運指は楽器ごとに違うので「ウィンドシンセ用の運指を覚えるの大変そう…」と思われるかもしれませんが……

その心配は要りません!

多くのウィンドシンセはリコーダーとほぼ同じ運指で演奏できる様に設計されています。
いくつかリコーダーには無いキーが付いていたり、リコーダーとは異なる運指もありますが、サックスやクラリネット・フルートなどの運指にも対応できる様になっている場合が多く、それらは#や♭の半音階をリコーダーより簡単な指の移動で可能にしていることもあります。

ソプラノリコーダーとEWIでBbを出す時の運指の違い。
EWIでは二つのキーを同時に人差し指一本で押さえるだけで良い。


さらに左手親指のオクターブキー/ローラーの操作だけで、他の運指はそのままにオクターブのみを変えることができます。これによって特に他の管楽器で高い音を出すための特殊な運指を特別覚える必要もありません

リコーダーとEWIでそれぞれhiC・hihiCを出す時の運指の違い。
リコーダーでは運指が大きく変わるが、EWIではオクターブローラーを押さえる位置を変えるだけ。

電子楽器の強みを活かして、カラオケのキーを変える様に半音単位で楽器の調(どの運指からドの音が始まるか)を設定できるトランスポーズ機能のほか、サックスやクラリネット・フルート・オーボエなどの管楽器の経験がある方でも機種によってはそれぞれの楽器に準拠した運指モードが設定できるので慣れた指遣いでの演奏が可能です。

他の管楽器との吹き替えはできるの?

↑EWI(上)とソプラノサックス(下)のキーの比較

サックスやクラリネット・トランペットなどをお持ちの方がそれらの代わりや練習用として小さな音でも演奏できるウィンドシンセを使いたい場合は、その楽器の運指に対応したウィンドシンセを選ぶ必要があるでしょう。
例えばRoland Aerophoneは全機種でサックス準拠のキー配列でサックスやリコーダーの運指モードを備えていますが、AE-10からはフラジオ運指やトランペット運指にも、AE-20からは加えてフルートやクラリネット運指にも対応します。

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一方AKAI EWIではサックスフルートオーボエ・金管楽器系運指に似たEVI式の運指が設定可能ですが、実際の楽器にある一部のキーがなかったりフラジオ運指に対応していません

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金管楽器奏者の方にはさらに選択肢が限られてきます。
多くのウィンドシンセに木管楽器(特にサックス)を模したキー配列の機種が多いこと、金管楽器の運指に対応している機種でもマウスピースが木管楽器の様に咥えるタイプのものが多く、NuEVIのオプションである金管楽器を模したマウスピースだとしても金管楽器特有の『同じ運指のまま吹き方で音高を変える』という奏法には対応していない場合が多いです。
この場合、通常金管楽器を支える左手で対応したキーを押したりすることによって同じ右手の運指でも音高を変える手法をとることがほとんどです。

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そしてウィンドシンセに限らず電子ドラムや電子ピアノなど、ほとんどの電子楽器で言えることですが、現在のアコースティック楽器を模した電子楽器で本物のアコースティック楽器と全く変わらない演奏性や音色を実現するに至っているとはまだ言い難いでしょう。
そういった点に留意する必要はありますが、近年目覚ましい進化を続けるウィンドシンセの技術によって管楽器にも練習の自由度が高まっているのもまた事実でしょう。

『シンセ』だから音色の種類は無限大!

リコーダーやサックスなどの管楽器を模した形の楽器ですが、心臓部である音源はシンセサイザーであることは、いわゆる鍵盤シンセと一緒です。
昔のウィンドシンセは実際に演奏する時に持つコントローラと心臓部の音源が別々でありそれらを専用のケーブルで繋ぐというものが一般的でしたが、近年ではコントローラに音源・スピーカーまで内蔵されたものもあるのでより手軽に楽しむことができるようになっています。

サックスフルートトランペットなどのアコースティック管楽器を模したものから車のスピードを思わず出したくなる様なアノ音まで…内蔵音源だけでも200種を超えるなど、音源にもメーカーのこだわりが詰まっています。

さらに電子楽器同士を繋ぐMIDI端子やパソコンによる音楽制作にも使えるUSB端子・本格的なアナログシンセの制御に使えるCV端子を備えているものもあるので、鍵盤シンセをウィンドシンセで演奏するといったことも可能です。(元を辿ればその方法が昔のスタンダードでもありましたが)
吹奏楽でも有名なTHE SQUAREの『宝島』では、Lyriconというウィンドシンセのコントローラをシンセの名機 YAMAHA DX7に接続して演奏していたことはウィンドシンセ界隈ではあまりにも有名です。

ウィンドシンセの名手・名盤

T-SQUARE(THE SQUARE)

ウィンドシンセを語る上で避けては通れないアーティストが T-SQUARE(THE SQUARE)。
メロディを奏でる楽器にLyriconEWIといったウィンドシンセを用いているのが特色であり、ウィンドシンセといえばスクェアスクェアといえばウィンドシンセという公式が成り立つといっても過言ではないほど、日本におけるウィンドシンセの地位を確立した存在と言えます。
ウィンドシンセを演奏する歴代フロントマンは、初代と現在のメンバー 伊東たけし・2代目 本田雅人・3代目 宮崎隆睦(敬称略) と3人おり、EWIの開発にも関わるなどウィンドシンセの発展にも大きく寄与しています。

マイケル・ブレッカー

テナーサックス奏者で有名ですが、AKAI EWIの登場前…その元となる『スタイナーホーン』からウィンドシンセの名手であることは間違いありません。
電子楽器であることを忘れてしまうかの様に非常にエモーショナルなプレイが特徴的です。

ナイル・スタイナー

EWIやEVIの原型・のちに最新型となるNuRAD・NuEVIの源流となる『スタイナーホーン』を開発したウィンドシンセの父ともいうべき存在。

トム・スコット

THE SQUAREの伊東たけしもEWIの前に使用していたLyricon(リリコン)の名手。
マイケル・ジャクソンの”Billie Jean”でも彼のLyriconの演奏を聴くことができます。
他の名手然り、紹介している動画が撮影された当時はウィンドシンセが世に登場したばかりでデジタル技術なども現在に比べて発展する前にもかかわらず、シンセの音色で生楽器の様なニュアンスを感じるところが不思議です。

筆者の機材紹介

筆者は中学時代に吹奏楽部でバリトンサックスを演奏していましたが専門学生時代にT-SQUAREの魅力に再び取り憑かれてしまい、アルトサックスとソプラノサックス・さらにはEWIまで買い揃えて5年ぶりの管楽器の世界に飛び込みました。ここでは筆者のEWI周りの設定を紹介します。

コントローラ:AKAI EWI USB

惜しくも生産完了品となってしまったEWIの最安モデルでした。EWI USB自体に音源やスピーカーは内蔵されておらず、その名の通りUSBでパソコンに接続してソフト音源を鳴らすものです。
機能が省かれている分軽量なのと、EWI4000にEWI30x0系のコンパクト&スタイリッシュさが加わった様なルックスが好みです。

EWI USBに付属するソフトで本体の設定ができます。


Breath Gain (ブレス感度)…やや重め。サックスに持ち替えても肺活量に困らないようにと一時期はさらに重くしていましたが、吹奏時の抵抗感と合っていなかったせいかアンブシュアに悪い癖がついてしまい現在の設定に落ち着いています。体調などでよく微調整します。
Bite AC Gain(バイト感度)…最大ですが筆者としてはちょうどいい感じ。バイトセンサーが鈍っているせいだと思います…
Pitch Bend Gain(右手のピッチベンドの感度)…少し鈍らせていますがコントローラにテープを貼るなどの改造はしていません。
Key Delay…運指が音に反映されるまでの応答速度を調整できるものですが、2がちょうど良く感じます。早すぎると指の動きにあまりにシビアすぎて余計な音が鳴ってしまい、遅すぎても音が遅れて聴こえる感触に気持ち悪くなってしまいます。

Transpose…演奏したい曲の音域の関係で本体の設定でオクターブ高い音が出る様にしています。
Fingering…サックス準拠です。サックスの感覚がどうしても抜けず、余計なキーに触れてもサックスモードなら効かない仕様にしてくれます。D-E♭のトリルが小指でしづらいのは仕方ない。

Bite CC…マウスピースを噛むとピッチが一瞬上がって戻り、噛んだ状態から戻すとピッチが一瞬下がって戻るという設定です。演奏に熱が入り勢い余ってマウスピースをちょっと噛んだりすると、ピッチの乱れ方に出てくるのが実に人間らしい…
Pitchbend UP control…ピッチベンドのセンサーがUPとDOWN2つあり、UP側の設定になりますがピッチベンドとしては使わずCC#5のポルタメントタイムに割り当てています。音高が無段階で滑らかに繋がる機能です。EWI USBには唯一、他のEWIにあるポルタメントスイッチが非搭載なので出番の少ないところに割り当てた結果です。大幅に効かせるわけじゃないのと本来の使い方ではないので操作の塩梅が難しいです。

音源:IFW

ウィンドシンセ界隈では有名なソフト音源です。今後有料化するとの情報もありながら2023年3月時点では無料で手に入ります

IFWは『VSTi』や『Audio Unit』などといった、DAW(CubaseやStudio Oneなど)という音楽制作ソフトなどの拡張機能として動作するものなので別途DAWが必要です。MacであればGarageBandに読み込めるので便利!
開発の目的が『T-SQUAREっぽい音を出したい』なので、安価なEWI USBとコレさえあればアナタも今日から伊東たけし!(もちろん本田さんにも宮崎さんにもなれます)
ホールで演奏している様な響きを生み出すリヴァーブをたっぷりかけるのがおすすめです。

なんとT-SQUARE 2代目フロントマンの本田雅人さんが近年のライブでNuRADとともにIFWを使っていらっしゃいます!(現在は限られた方のみが使えるiOS版を使用されています)

上述の通り『T-SQUAREっぽい音を出したい』と、開発者の方が色々な音色プリセットも公開してくださっているので、それだけですぐにあんな音やそんな音が出るのですが、自分に合う様にちょっと変えたりしています。

おわりに

ウィンドシンセは手軽に始められて簡単に演奏しやすい楽器になってきました。
新しい趣味として、普段の楽器の練習にも…個人的には何よりあの有名な曲の音色が他の楽器では考えられないほど簡単に出てしまうのが魅力ではないでしょうか。
誰もが一度は手にしたことのあるリコーダーに近い感覚で、しかし突き詰めれば奥の深い楽器でもあると思います。
1970年代にはLyriconが登場するなどウィンドシンセ自体の歴史は意外とあるものですが、電子音楽で溢れる昨今の音楽シーンにこそ通じる何かがあるのではないかと思っています。チップチューンでよく聴くピコピコ音…なんとなくリコーダーっぽく聴こえてもきませんか?
ギターやピアノが馴染み深い楽器になっていった様に、ウィンドシンセもその一つになることを期待してやみません。

 

↓筆者がウィンドシンセを演奏している映像です。

 

SHIMAGAKU

2001年 東京都八王子市生まれ。
「MIYAVI奏法講座」として独学で学んだスラップギターの奏法やフレーズなどを解説する動画シリーズを制作。
ギターのみならずドラムやベース、最近では中学以来の吹奏楽器を再開しウィンドシンセに目覚めるなどのマルチプレイヤー。
『MIYAVI奏法徹底解説!SHIMAGAKUチャンネル』はコチラ

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