鈴木健治サロン 配信レポート【オーケストラとギター】
はじめに
こんばんは。今日の内容は「オーケストラとエレキギター」という大仰なタイトルをつけちゃいましたけど、先日ギターで参加した『ワールドトリガー THE MUSIC EXPO』っていうコンサートで、生のオーケストラとの共演で感じたことを中心に生演奏のことや、プロの演奏家として改めて思ったことなどをお話しします。
※『ワールドトリガー THE MUSIC EXPO』は迫力のオーケストラ生演奏で、アニメ『ワールドトリガー』を彩った数々の劇中音楽を、スクリーンに映し出されるアニメ映像と共に楽しめるイベント。
今回オファー頂いた音楽監督の川井憲次氏は鈴木健治本人がプロになるキッカケを与えて下さった恩師でもあり、ツインギターでの共演は初めての事でした。
エレキギターとはいえ、今回のコンサートでは“いわゆる交響曲の1パート”なんです。
ピアノとかは和音なので例外ですが、バイオリン、フルート、トランペットやトロンボーンなど、1個1個の楽器は基本的に単音しか出ませんから、みんなで重ねて和音にしていくわけなんですよ。
1人が変な音を出すとハーモニーが乱れてしまうという、結構みなさんそれぞれが責任重大なんです。
オーケストラと共演して改めて認識した楽譜の重要性
楽譜の話になるんですが、たまにネット等で「楽譜を読み書きできなくても良い」といった発信を見かけることがあるんです。純粋に趣味として音楽を楽しんでいる方はいいと思うんですが、プロと名乗る方が読み書きできなくても良いと言ってしまうのはどうだろうか?と思っていて。
DTMやDAWベースでやりとりする時って実際データだけのやり取りで楽譜が必要ない時もあるんです。僕も自分だけが関わる自分の作品では楽譜を書かない事もあります。ただ、例えばバイオリンの方にメロディを弾いて頂きたい時など、”プロの演奏家にお願いする時”はやはり楽譜が必要だと思うんです。
相手に聴いて覚えてもらうという選択肢もありますけど、すごく時間がかかりますし、覚えるためには一回聴くだけじゃ済まないんです。他人の曲って一回聴いただけじゃ覚えられないので、聴いて覚えるのとは別に自分で楽譜を書かなきゃいけないんですよ。
実はそれってすごい“別の仕事”なんです。
また、冒頭でもお話しましたが、“ギターも(オーケストラの)ハーモニーの中の1つのパーツ”になるんです。だから「自由に弾いてください」っていうパートはほぼ無くて、楽譜通りにきっちり弾かないと曲が台無しになっちゃうんですよね。
僕もそこまで楽譜に強いわけじゃないですし、ギタリストの方ってやっぱり楽譜に弱い傾向があるんです。なんでかっていうと「タブ譜がある」「移動ドで弾けちゃう」「音階で覚えることをしなくても弾けちゃう」っていう…でも「こういうメロディで弾いてください」って楽譜渡されたら、それは読めないとできないですよね。
あと特にオーケストラは“待ちの時間”があるんですよ。曲中で他のパートの方が演奏している間、20何小節とか30何小節とかひたすら数えながら次に入るタイミングを待つんですよ(笑)
入るタイミングが来た時は、遅れて入っても早く入ってもダメなので「やはり楽譜は読めないとな」って思いました。
ライブ配信だからできる鈴木先生の実演タイム
(ここでは公開できませんが、実際に普段使用されている楽譜をチラッとお見せ頂きながら実演して下さいました!)
例えば、音符の書いてあるところと書いてないところがあるんですが、書いてないところにはリズムの譜割りが書いてあって、こういうリズムでバッキングを弾いてくださいということなんです。
今回のバッキングは歪みでズンズンズンズンとパワーコードで刻んでる時間が長かったのですが、
もちろん”しっかり弾く技術”は簡単ではないですけど、”楽譜を見て弾く”という意味ではシンプルなものでした。
で、肝心なのはメロディなど“音符が出てくるところ”
メロディの部分は他の楽器とハモったりユニゾンしたりするのでこの通りに弾かないといけないんです。
視聴者さんとのやりとりで、鈴木先生の現場での楽譜事情も判明!
▶︎「膨大な量の紙ですね」(視聴者さんからのコメント)
そうですね、一つのコンサートの楽譜は結構膨大になります(笑)
実際はiPad proでアプリを使い、iPadにトラブルがあったときの為に、きちんと整理した見やすい紙の楽譜を譜面台に置いてやりました。
▶︎「楽譜って大切なコミュニケーションの手段なんですね」(視聴者さんからのコメント)
まさにそうです。コミュニケーションの手段なんです。
プレゼンする時とかに資料配るじゃないですか。あれと同じで、楽譜は自分の曲を人に伝えるためのものなので、自分の曲で自分がわかっている場合は必要になるまでは別になくてもいいですが、人に伝えるためには見やすい楽譜が必要なんです。
あ、実は“見やすさ”も大事です。実は(譜面ソフトから単純に出力しただけの)”印刷譜面”って見にくいんですよ。
僕も当たり前に使うのですが、(ソフトとかで作った)印刷された譜面だとリズム感が無かったり、置いて欲しいところに音符がなかったり、コードネームがやたら小さかったり…そういうのってリアルタイムで演奏する時にすごく影響するんです。
(そこまで意識してデータ化すれば見易くする事は可能)
だから写譜屋さんっていう楽譜書く職業が今でもあるんですけど、とても見やすいんですよ。文章でも「句読点の位置」とか「改行のタイミング」とかで読みやすさって変わってくるじゃないですか。そういうのと一緒ですね。
楽譜の話から派生し音楽理論の話について
あとは音楽理論っぽい話だと、「音楽理論を知ってしまうと理論に縛られた音楽しか作れない」っていう意見を聞く時があるんです。別に音楽理論を知らなくても音楽は作れますけど、知っておいた方が確実に良いと僕は思っているんです。
例えば何かメロディがあってそれにハモリを付けたい時。直感的にハモれるフレーズはありますし、カラオケとか行った時にハモリが上手い人はいますけど、それは“曲を知っているから”なんです。知らない曲にハモリをつける時は、理論とかコードの構成音を知っていないと、やっぱりちょっとおかしなことになっちゃうんですよね。
でもそういう時に理論を知っていると、楽譜に音符でメロディとコードが書いてあれば「ハモるならこの音だよね」ってできるんです。知っていた上で作ると「理論的にはおかしくてもカッコいいからいいや!」って辿り着けるし「なんかこの音おかしいな」ってなった時に、「理論的にこれがおかしいんだ!」ってすぐ違う音に導ける。
コードとかの組み立ても、やはり理論を知っているのと知らないのとでは全然違うし、メロディだけあってそれにコードをつける時も、理論を知っていた方がやりやすいんです。「このメロディの流れで次にこの音に行ったら、こう言うコード進行が当てはめられるな」っていうのが、その曲を知らなくても理論を知っていればできるんです。
そういった意味でも音楽理論を知っているとすごく便利ですよね。なので「音楽理論を知ると縛られた音楽しか作れない」というのは少し違うのかなと、僕は思います。
楽譜とか音楽理論って本当に大事なんですけど、なぜか蔑ろにされてしまっている時が見受けられるんですよ。楽譜の読み書きができないと音楽ができないわけではないですけど、できた方がいいですよね。
今回は楽譜がないと絶対できない仕事をやったので、強く思った次第です。
さらに話は盛り上がり「ショパン国際ピアノコンクール」を観て感じたこと
僕は所謂”にわか”なんですけど、今ちょうど世界的にピアニストの登竜門と言われているショパンコンクールをやっていて、たまたま今回はYouTubeでやっていたので観ていたんです。
みなさん暗譜した上で、ショパンが作った同じ曲を“楽譜通り”に素晴らしい演奏をされるのですが、一人ひとりが全然違うんです。これがやっぱ”クラシックの面白いところ”だなと。
ギターもそうですが、弾き方で本当に音が変わるじゃないですか。だから楽譜通りに弾いていても、ちゃんと“個性”とかその人が表現したい“歌い方”っていうのが出るんですよね。
本当ににわかの感想ではありますが、とある決勝に行けなかった方は、速い部分はとても得意なように感じたのですが、演奏の正確さが”楽器を演奏する”というよりも”少し機械的な雰囲気”に思えたんです。鳴っている音は正しいけど…という印象で。
本当にとてもとても高いレベルでの話ですけど、スローな場面になると間が待ち切れていないのか音符と音符の間がちょっと短くなっちゃっていたように感じたんです。
ギターも同じで器用に指が動くことも大事ですけど、“ゆっくり弾いた時の表現力っていうのはすごく大事”だし、それって「速く弾いた時にも出るんだな」って改めて思いました。
僕はとてもニュアンスを大事にして演奏したい方なので、その気付きは逆にすごく嬉しかったですね。「やっぱり違い出るんだ、ピアノでも」って。楽譜通りの速い演奏だとしても、誰もが同じじゃないんだなと。もっというと「正確に弾けても、それが正しいというわけじゃないんだ」と思いました。
さいごに
参考になったかはわからないですし、クラシックとエレキギターっていう大仰なタイトルでやっちゃいましたけど、最後に一つだけ加えたいのが、
自分の思った通りに一人で自宅で演奏するのはとても楽しいんですけど、先日のコンサートでブラスとコーラスとユニゾンのフレーズを弾いてる時は、なんていうんですかね、 “生演奏じゃなきゃありえない高揚感”というか、ロングローンを弾いているだけでも「みんなとユニゾンしてる!」っていう感覚は、本当に生演奏ならではのことだと思いました。
今は打ち込みでなんでもできますし、ひたすら生音っぽくすることはできます。それはそれで制作としてはアリなんですよ。VRや立体音像も、もちろんそれはそれで進歩しているとは思うんです。
ただ人が集まった生演奏で “「いっせーの!」で音を出す強さ”っていうのはまた違うものだな、と改めて思いました。
DAWでの音楽制作やAbleton を使ったルーパーパフォーマンス的な一人でやる形は僕にとっては貴重な表現方法ですが、逆に一人じゃできない、人が集まってやらなきゃできない音を出すってこともやっぱり大事だなと、凄く強く思いました。
このライブに参加させて頂いた事に感謝してこれからもバランスよくやっていけたらと思っています。
それではまた来週の配信でお会いしましょう。お疲れ様でした。
Music School オトノミチシルベ
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