ベーシストのためのグライコ解体新書〜今日から使える周波数特性のハナシ〜
グライコとの出会い
「オトノシラセ」読者の皆さん、こんにちは!
オトノミチシルベ ベース講師の中村和正です。今回は私の実体験を交えながら『グラフィックイコライザー』についての記事を書いてみたいと思います。
エレキベースを始めた頃は中々スタジオに入ってバンドで音を出すという習慣もなく、自宅に入門セットのアンプを持ち寄って友人とセッションするという日々を過ごしていたので、グライコはおろかアンプの使い方についての知識もゼロの状態でした。
時も経ち、いよいよバンドでLiveを!….となった時にスタジオに入ってビックリ!
アンプは沢山置いてあるものの、使い方以前にまずはどれがベースアンプなのかが分からない…(笑)
入門セットのアンプと全く違うサイズや見た目に衝撃を受けたことを今でも覚えています。
無事、店員さんの丁寧な説明によってどれがベースアンプか知ることが出来ました。ある程度アンプの使い方もレクチャーして頂いたのですが、ツマミの数が入門用アンプの五倍ぐらいあり大混乱…。
そんな中で出会ったのが『イコライザー』でした。ベース、ミドル、トレブル等でトーンコントロールを行う『パラメトリック・イコライザー(パライコ)』の他に、いくつも並んだスライダーを上下に動かして音を調整する『グラフィックイコライザー(グライコ)』。
何故同じ『イコライザー』のセクションが2パターンもあるんだろう?と疑問を抱くも、深く考えずアンサンブルで音を出してみたのですが、とにかくバンド全員が爆音で、誰が何を演奏しているのか全く聴き取れない…初めてのバンド練習あるあるの様な状況になってしまいました。
それから試行錯誤して、音量を上げるだけでは解決しない。トーン(音質)の調整も重要だという事に気が付いたのですが、闇雲にトーンコントロールやグライコを調整しても何だかしっくりこない…。
『これは色々試してみないと!』と危機感を感じ、当時の中村少年はグラフィックイコライザーのスライダーに手を伸ばしてみたのでした。
グライコとパライコって何が違うの?
見た目(パライコはツマミ、グライコはスライダー)ももちろん違いますが、調整出来る周波数の範囲と量が違うのが一番の特色です。
ここでは各イコライザーの特徴や長所、短所を解説します。
パライコ
ベース、ミドル、トレブルでざっくり音作り。機種によってローミドル、ハイミドルに分かれているものや、フリーケンシー(ブーストorカットする周波数帯を自分で調整できる機能)が付いているものもありますが、大体3~4つぐらいの帯域を調整するものが多いです。
パライコの長所
自分の欲しい、または要らない音域の名前が書いてあるツマミを回すだけで良いというシンプルさ。
パライコの短所
・フリーケンシーが付いていない場合、設定されている数値が固定なので好みに合わなかったり、使用している場所の響きの相性が合わない場合は音作りが難しい。
・フリーケンシーの効果や選べる周波数帯の特徴を知らないと使いこなすのが難しい。(ブーストやカットもせずにフリーケンシーのツマミを動かし、『何も変わらないじゃん』と思っている時代がありました…)
・近い音域をカット・ブーストするなど細かい設定にするのが難しい。
グライコ
音域を調整出来るスライダーが4~10個ぐらいあり、数値を見ながら視覚的に細かく音作りしやすい。
グライコの長所
・「グラフィック」という名前のとおり、見た目でどの音域がどの様にブースト・カットされているか分かりやすい。
・数値が書いてあるのでどの音域を調整するとどの様な効果が得られるか、という経験が得られる。
・細かい音作りが可能なので、サウンドメイクに追い込みをかけられる。(会場による響きの違いにもある程度対応出来る)
グライコの短所
・ベース本体や奏法、使用している場所の響きやなどの実際出ている音のトータルバランスを疎かにして、『周波数帯やスライダーの位置』に依存してしまう。
・細かい設定が出来るがゆえ、極端だったり独特なセッティングにチャレンジした結果、わざとらしい音になってしまう可能性がある。
グライコの帯域別 特徴紹介
60Hz以下(ultra Low)
聴感上の低音と言うよりは『空気感』的な低音です。ベースは低音楽器なので低い音域を上げたくなりますが、どちらかと言うとカットする事によって逆に音が聴き取りやすくなる事が多いです。しかし下げ過ぎるとスカスカなアンサンブルになってしまう恐れもあるので注意が必要です。アンサンブルで合わせてみて音量は足りているのに音程が聴こえない場合はこの帯域を下げてみて下さい。
60Hz~250Hz(Low)
音の太さを出したいなら125Hz~250Hz辺りを上げるのがオススメですが、バスドラムやギターやピアノの低音域と干渉してしまう場合は音量を調整してみましょう。
250Hz~1KHz(Low-Mid)
音抜けが欲しい時は上げてみましょう。上げ過ぎるとわざとらしくなってしまったり、ベースが目立ち過ぎてアンサンブルから浮いてしまう恐れがあるので、バンド全体のバランスをよく聴きながら調整することが重要です。
1KHz~4KHz(Hi-Mid)
1KHz辺りを上げると音の輪郭がハッキリするので、メロディやソロを弾く時に上げることが多いです。粒立ちを良くしたい場合は4KHz付近を調整するのもオススメです!
スラップする時は2KHz辺りを上げ過ぎるとキンキンした耳に痛い成分が強くなる可能性があるので、その場合は少し下げてみると良いかもしれません。
4KHz~8KHz(High)
スラップなどでギラギラしたサウンドに必要な帯域です。ベースの役割的に高域はカットしがちですが、カットし過ぎると音の輪郭がぼやけてしまうので、ある程度は残した方が良いでしょう。
筆者オススメのセッティング
ここでは私のオススメのセッティングをご紹介させて頂きたいと思います!
(写真は私の愛機、G&L L2500とHartke HA3500 350WATTS)
イコライザーは楽器本体やアンプ、エフェクターなど色々なセクションに付いていますが、『どのイコライザーを何の為に使うのか』を自分なりに決めることが重要です。
私の場合は、ベース本体→エフェクター→DI までで基本的な自分の音色をある程度決めてPA卓に送り、外音(会場のスピーカーから出る音)はPAさんにお任せしています。
メインで使用しているベース本体(G&L L2500)はピックアップセレクターやアクティブ、パッシブ切り替えも付いているので、その日に演奏するジャンルによってベーシックなサウンドメイクが調整可能です。
⬇︎
エフェクター(プリアンプやグライコ)でベース本体で調整しきれない音域や音質(歪み等)を調整します
(ここまでである程度イメージや設定を自分なりに決めておく)
⬇︎DI→会場のスピーカーからの出音はお任せ
アンプでステージ上の音量、音質を調整する。同じセッティングでも会場によって聞こえ方が変わるので自分のサウンドイメージに合うように調整(トーンコントロールやパライコ→グライコの順)
と言った流れです。
会場の規模によってはアンプの音のみでOK!となる場合もあるので、DIまでの音も大事ですがアンプから実際出ている音もとても重要です。
続いて、具体的な奏法別のセッティングも紹介したいと思います。
今回はDAW(Cubase)で
ベース本体(ピックアップセレクターでプレシジョンベースモード、ジャズベースモードを選択)→エフェクター(グライコ)のDIに繋ぐまで
の部分をシミュレートしてみたいと思います。
前半はベース→オーディオインターフェースでベース本体のみの音、
後半はベース本体で調整しきれない部分にグライコ(Cubase VST Bass Amp Graphic Equalizer)をかけて自分の好みのサウンドに調整しています。
スラップ
フュージョンやシティーポップ等を弾く時のイメージで作りました。125~250Hzを上げて太さを出しつつ、8KHzを上げてプルの音を際立たせています。2KHz辺りが上がっていると耳に痛いサウンドに感じてしまうので少し下げているのもポイントです。
指弾き(JBモード)
16ビート系のファンクを弾く時のイメージで作りました。1KHzを上げて音抜けを出しつつ、125Hz辺りで太さも少し足しています。
指弾き(PBモード)
R&B等を弾く時のセッティングのイメージで作りました。プレベならではのゴツゴツ感や太さを増すために125Hz~250Hzを少し上げて高音域を少し下げ、オールドスクールな雰囲気を出しています。
ピック弾き(JBモード)
ファンキーなロックをピックで弾くイメージで作りました。PBモードの様に音が太い訳ではないので60Hzはフラット、125Hz~250Hz辺りを上げる事により聴感上の低音感や太さを追加しつつ4KHzを上げて粒立ちを追加しています。
ピック弾き(PBモード)
ミディアムテンポのロックを弾く時のイメージで作りました。元々のサウンドが太めの音なので60Hz辺りを若干下げて音をスッキリさせ、2kHz辺りを下げてザラつき過ぎない様にしつつ、4KHzを上げて音の粒立ちを加えています。
いかがでしたでしょうか?グライコをかける前と後で、サウンドのイメージが変化している事がお伝え出来ていれば幸いです。
最後に
今回はグラフィックイコライザーについて説明させて頂きましたが、一番重要な事は『自分の求めるサウンドのイメージを明確に持つ!』という事です。
そのイメージが明確でなければ、どこのセクションでどのような調整をすれば自分の求めるサウンドに早く近づく事が出来るか?という答えに辿り着く事は難しいでしょう。
まずはベース本体、そして奏法でしっかりとイメージ通りの音になる様にスキルを磨くこと。それでも足りなければエフェクターやアンプで調整をしていく流れがスムーズかと思います。
グライコはとても便利ですが、初めから頼り切りにならずに自分のイメージに近づけるための秘密兵器として携えるくらいが丁度いいかもしれませんね。
理想のサウンドに少しでも近づける様、一緒に色々試していきましょう!
中村 和正
NHK、 Eテレ『ムジカピコリーノ』出演、
楽器メーカー YAMAHAのデモンストレーターとして東京ギターショウ、楽器フェア出演、
教則DVD出演(アトスインターナショナル)、ブライダル、パーティーでの演奏など
活動はジャズ、ロック等ジャンルを問わず多岐にわたる。
2009年より名古屋スクールオブミュージック(名古屋コミュニケーションアート専門学校)の講師としても後進の指導を行っている。
超絶シュレッド・ギタリスト Kelly SIMONZ( ケリー・サイモン ) のアルバム
『 Kelly SIMONZ’S BLIND FAITH 』
『At The Gates Of A New World』
『Overture Of Destruction』
をキングレコードよりリリース。
Mevin Kimが率いるシンフォニック/メロディック・メタル・バンドAgnesのアルバム
『Hegemony Shift』
をキングレコードよりリリース。
メロデックメタルバンドRachel Mother Gooseのアルバム
『TOKIWA NO SAI』をspiritualbeastよりリリース。
海外、日本全国各地ツアーも行っている。